在宅ターミナルケアにおいて、残された時間に患者さんが本当にしたいことを実現するのは極めて大切なこと。宗教との関わりも看過できない問題です。キリスト教系の病院やホスピスでは院内に教会を設置しているケースがありますし、チャプレンと呼ばれる神父や牧師がいることも珍しくありません。仏教でも医療や福祉の現場で活動する、ビハーラと呼ばれる僧侶がいます。
水野クリニックの三軒龍昌医師は、在宅ターミナルケアの現場でビハーラとしての活動を模索しています。高野山真言宗の僧侶資格保有者でもある三軒医師は、こう語っています。
「わかりやすい喩えで言えば、在宅の患者さんに対して枕経(まくらぎょう)を唱えることがそのひとつです。キリスト教では終末期への関わりは自然なことなのに、仏教の僧侶が臨終前に枕経を上げようともなれば『縁起でもない』と思われてしまいがちです。これは誤解で、臨終時に僧侶を迎え、枕経に包まれながら最期を迎えるのが本来なのです。ですから、あくまで患者さんが望めばという前提ですが、患者さんが本当にしたいことの選択肢のひとつとして、枕経があってもいい。ただ、ご家族の思いもありますから、信頼関係を構築しなければ実現は難しいのです。現状では退院してから1~2週間ほどで臨終を迎えるケースが多く、その短期間に信頼関係を築くのは至難の業。もっと早いタイミングで関われるようにして、宗教と医療の距離を近づけたいと願っています」
終末期に限らず、「いかに早いタイミングで患者さんと接するか」は水野クリニック全体としての課題です。早ければ早いほど、患者さんのニーズを正確に把握できる可能性が高まるからです。大学病院等との間で密に連携することがカギととらえ、さまざまな機会を捉えて医師も看護師も顔を出し、情報発信に努めてもいます。